就活どこまで使える
ビデオを見せたことをT放送局は隠し、当初は事実無根と公の場で白を切っていた。
弁護士一家失院事件が公開捜査となり、弁護士の関係者が失院事件に関連した情報を欲していたのに、T放送局はその事実を長期間隠していた。
また社内調査をしても、「ビデオを見せたことにつながる記憶や事実関係はどうしても出てこない」と公の席で表明していた。
3月19日の衆議院法務委員会でも、T放送局の常務は「ビデオは見せていないと確信している」などと述べた。
ところが、3月23日にビデオテープを見た本人のメモの内容が明らかになると、同25日には一転してビデオを見せたことを認めた。
さらにその後には、T放送局の一部の幹部が前年10月にはメモの核心部分を知っていたとも一部で報道された。
日本の官僚組織は世界的にみても効率的で、官僚自体も有能であるとみなされていた。
また国民の官庁に対する信頼は大きかった。
一連の不祥事によって、このようなイメージは誤りであることが誰の目にも明らかになった。
厚生省の薬害エイズ問題に関連して次のような事実が判明してきた。
すなわち、非加熱血液製剤によるエイズ・ウイルス感染の危険性がわかっていたときに、厚生省は国内血を原料とした製剤の供給拡大や加熱製剤の早期導入を検討しながら、人間の生命よりも日本の製剤メーカーの利益を優先したためか、これらの施策を行なわないことを密室で決定してしまった。
厚生省は行政の過ちを隠蔽するために、関係資料を隠そうとしたり小出しにしたりした。
厚生省やその関係者に不利になりそうなことが問題となると、申し合わせたように「記憶にありません」という返答が繰り返された。
最大手の製剤会社であるM社は、厚生省が加熱製剤を承認した後にも、非加熱製剤の危険性を知りながらその出荷を続けていたことも明らかにされている。
しかも出荷の最終時期と回収終了時期を虚偽報告していた。
官庁のなかでも絶大な権限を持つ官庁、また「富士山」とも自負する官庁である大蔵省の不祥事は一つの省の問題だけでなく、日本国全体の問題ともなる。
大蔵省の組織運営方法は、日本全体の組織運営方法に影響を与える。
それだけでなく、たとえば事実の隠蔽工作でも、大蔵省が行なったものと一民間企業が行なったものとでは、外国人(日本人も)から見た重要性には雲泥の差がある。
その大蔵省が今や信用を喪失し、多くの人々の批判にさらされている。
責任回避と天下り先の確保ばかりを考えているといわれている。
D銀行問題と類似の問題はその前にも存在したバブル崩壊後に大手証券会社の損失補填という不祥事が明らかになったことがある。
証券会社の監督官庁である大蔵省は、事前にそれを知りながら放置していたといわれる。
損失補填の事実が明るみにでると、大蔵省は知らなかったかのような態度をとった。
最大手の証券会社社長が、「全部大蔵省が承知していた」と大蔵省の無責任に対して「異例の」非難を行なう一幕もあった。
住専問題は大蔵省の犯罪ともいわれている。
住専の設立には大蔵省が大きくかかわっただけでなく、住専設立時の社長のほとんどは大蔵省出身者であった。
1990年3月に「不動産業融資総量規制」通達が大蔵省からでたが、住専だけは対象外で住専から不動産業者への融資は続いた。
また同時期にでた「3業種規制」通達のために、農林系金融機関から住専に多量の融資が行なわれた。
その後奪ハブルは崩壊し、住専には8兆円以上の不良債券が残った。
大蔵省は、1993年には甘い見通しだらけの住専七社の再建計画をつくり、住専処理問題を先送りにした。
密室で意思決定を行ない、実態を公にせず、問題を悪化させてしまった。
(1993年の国民福祉税構想のときも、官房長官や主税局も知らないうちに案がつくられていった。
)1995年に大蔵省お抱えの金融制度調査会は、住専の不良債券処理に公的資金を使うという案を出し、翌96年には財政資金の支出が可能となる住専処理法案が可決・成立するにいたった。
これらの不祥事は、日本の伝統的価値である信頼が、すでにかなり消滅したことを示唆する。
これらの不祥事には、現行の日本的システムの構造的欠陥を示唆する共通の現象がみられる。
本章では、それをもたらしたと推察される制度的・組織的・心理的な要因を考えてみたい。
前章までにみたように終身雇用制は優れた機能を有するが、その反面なぜこのような不祥事も引き起こすのかを検討してみたい。
かなり詳しく報道されたこれらの不祥事を通して、日本的組織の根本的問題に対する理解を深めることができるように思われる。
これらの不祥事にまず共通なことは、不正をしたり問題が起こったりしても、内々に処理して外部には何もなかったような振りをしようとする行動である。
すなわち口封じまでして、自己の不正や問題を隠蔽するやり方である。
また組織内の少数者が、重要な決定を密室で行なってしまうということも、すべてに共通であろう。
官庁による密室の指導行政はマスコミで広く批判されわが国全体が虚偽の情報空間に包まれはじめた。
一般の国民は政府の言動を信用しなくなってしまっている。
バブル経済期以降、銀行の信用も大きく低下した。
最近は加速している。
上層管理者が一般社員の信頼を失っている組織も少なくない。
信頼や信用を喪失した社会には大きな混乱状態が出現する。
すでに混乱は進行中ともいえる。
組織内でも嘘でその場をごまかす日本人が増えてきた。
また嘘でもうまくつけば、受け入れられるようにもなってきた。
イギリスの経済学者K氏が、日本は信頼を重視する社会であるようだといったのは、つい数年前である。
日本は急速に低信頼社会に移行しつつある。
低信頼社会では信頼という言葉を発すること自体が虚しい。
日本社会の劣化は急激に進行しており、将来を危倶する人が増えている。
これらの不祥事では、組織内で重要な地位を占める少数の個人(それらの組織の指導者であるべき個人)が、反社会的な行動を意識的ないしは積極的にとったと推察される。
彼らはわが国の国際的評価・信用をいちじるしく損ねた。
経済学には外部不経済という概念がある。
公害や騒音がその例で、費用を支払わずに他者に害を与えることを意味する。
これらの不祥事は、少数の日本人の行なったことが日本人すべての国際的評価をいちじるしく損ねたという意味で、日本人全体に多大な外部不経済を与えた事件である。
これらの不祥事は、「一流大学」を卒業するということがどういうことかも明らかにした。
積極的にこれらとかかわった者のほとんどは「一流大学」の出身者である。
「一流大学」出身者でも有能な指導者でないばかりか、国の名誉や国民全体のことを考えていないことが判明してしまった。
この事実は自ずと日本の教育に対する根本的な批判ともなる。
わが国の教育を「模範的に」修了した人間は、自己の利益と保身を追求し、わが国全体の利益をいちじるしく低める人間であった。
右に列挙した不祥事が、典型的な日本的システムの下にある大企業(高名企業)や公的機関などの組織において発生したことは示唆的である。
類似の不祥事はそれ以前にもなかったわけではないが、これほどの不義・不正が短期間に、しかもワン・パターンのように続発したのは珍しい。
その背後には、それなりの共通のメカニズムがあるはずである。
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